プレミアリーグの税金制度
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プレミアリーグ選手の所得税率
プレミアリーグの選手たちは、その高額な年俸ゆえに、イギリスの税制において最高税率の適用を受けることがほとんどです。イギリスの所得税制度は段階的な構造になっており、2024年度の税率は以下のようになっています:
- 個人所得控除額(12,570ポンドまで):0%
- 基本税率(12,571ポンド~50,270ポンド):20%
- 高率税率(50,271ポンド~150,000ポンド):40%
- 追加税率(150,000ポンド超):45%
プレミアリーグのトップ選手の多くは、年収が150,000ポンドを大きく上回るため、45%という高い税率が適用されます。例えば、マンチェスター・シティのケビン・デ・ブライネ選手の推定年俸は2,000万ポンド(約35億円)ですが、税引き後の手取りは約1,100万ポンド(約19億円)程度になると試算されています。
さらに、国民保険料(National Insurance)も給与から天引きされます。2024年度の料金は以下の通りです:
- 週184ポンド~967ポンド:12%
- 週967ポンド超:2%
これらの税金に加えて、多くの選手は代理人費用や各種保険料も支払う必要があるため、実際の手取り額はさらに減少します。
移籍金に関する課税の仕組み
サッカー選手の移籍に伴う金銭の流れは複雑で、税務上も特殊な扱いを受けています。移籍金自体は、選手個人ではなくクラブ間で支払われるため、直接的には選手の所得税の対象とはなりません。しかし、移籍に関連する様々な取引が課税の対象となります。
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- 付加価値税(VAT):クラブ間の移籍金取引には20%のVATが課されます。
- サインオンボーナス:選手が受け取るボーナスは所得税の対象となります。
- 代理人手数料:代理人への支払いにも20%のVATが適用されます。
興味深いのは、クラブが選手の移籍金を「資産」として扱い、契約期間にわたって減価償却することができる点です。これにより、クラブは会計上の利益を調整し、税負担を軽減することが可能になります。
例えば、チェルシーFCは2022-2023シーズンに多額の移籍金を支払って選手を獲得しましたが、8年という長期契約を結ぶことで、年間の会計上の支出を抑えるという戦略を取りました。これにより、FFP(財務フェアプレー)規則に抵触することなく、大型補強を実現したのです。
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クラブの法人税と財務への影響
プレミアリーグのクラブは、一般の企業と同様に法人税の対象となります。イギリスの標準法人税率は19%ですが、2024年4月からは25%に引き上げられる予定です。この税率の引き上げは、クラブの財務に大きな影響を与える可能性があります。
クラブの主な収入源は以下の通りです:
- 放映権収入
- チケット販売収入
- スポンサー収入
- グッズ販売収入
- 選手の移籍による収入
これらの収入に対して法人税が課されますが、クラブは様々な経費を計上することで課税対象となる利益を調整します。主な経費項目には、選手や従業員の給与、施設の維持費、移籍金の償却費などがあります。
特筆すべきは、プレミアリーグの放映権収入の巨額さです。2023-2024シーズンでは、最下位のクラブでさえ、ドイツのブンデスリーガ優勝クラブの約2倍の放映権料を受け取っています。この莫大な収入が、プレミアリーグクラブの財務基盤を支え、高額な移籍金や給与の支払いを可能にしているのです。
プレミアリーグの財務状況と放映権収入の詳細についてはこちらを参照してください。
税金対策と海外口座の利用実態
プレミアリーグの選手やクラブは、合法的な範囲内で様々な税金対策を行っています。特に注目されるのが、海外口座の利用です。
海外口座を利用する主な理由:
- 国際的な資金移動の容易さ
- 為替リスクの軽減
- プライバシーの確保
- 税務上の最適化
しかし、2017年以降、CRS(共通報告基準)の導入により、各国の税務当局間で金融口座情報が自動的に交換されるようになりました。これにより、海外口座を利用した脱税や租税回避の余地は大幅に縮小しています。
一方で、完全に合法的な税金対策も存在します。例えば、選手が自身の肖像権を管理する会社を設立し、その会社を通じて収入を得ることで、個人所得税率よりも低い法人税率の適用を受けるケースがあります。
また、クラブ側も税務戦略を駆使しています。例えば、選手の移籍金を一括で支払うのではなく、複数年にわたって分割払いにすることで、各年度の課税所得を平準化する手法が用いられています。
ブレグジットによる税制への影響
2020年1月31日のブレグジット(イギリスのEU離脱)は、プレミアリーグの税制にも影響を与えています。主な変更点は以下の通りです:
- EU域内での自由な人の移動の制限
- VAT(付加価値税)の取り扱いの変更
- 関税の導入可能性
特に、EU出身選手の獲得に関する規制が厳しくなったことで、クラブの人材戦略に大きな影響が出ています。これまでEU域内からの選手獲得は比較的容易でしたが、ブレグジット後は就労ビザの取得が必要となり、若手有望選手の獲得が難しくなっています。
また、EU域内でのVAT還付の仕組みが変更されたことで、クラブの海外遠征や国際大会参加時のコスト増加が懸念されています。
さらに、ポンド安の影響で海外選手の獲得コストが上昇し、クラブの財務に追加的な負担がかかっています。
これらの変化に対応するため、プレミアリーグのクラブは以下のような戦略を取っています:
- 国内若手選手の育成強化
- 南米やアフリカなど、EU以外の地域からの選手獲得に注力
- 財務戦略の見直しと経費削減
ブレグジットの長期的な影響はまだ完全には明らかになっていませんが、プレミアリーグの競争力維持のためには、クラブと選手双方が新たな環境に適応していく必要があります。
以上、プレミアリーグにおける税金制度と移籍金の仕組みについて詳しく見てきました。複雑な税制や法規制の中で、クラブと選手たちは常に最適な戦略を模索しています。今後も経済情勢や法制度の変化に応じて、この分野は進化し続けるでしょう。サッカーファンの皆さんは、ピッチ上の戦いだけでなく、こうした舞台裏の動きにも注目してみてはいかがでしょうか。